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『シャンパーニュのある時』

アトリエ5 ~luxと共に生きる

ポンっとどこかでコルクの栓が抜かれる音がしたら、作業机をきれいにする時間かもしれない。散乱する工具を隅によせて、真っ黒、時に真っ白に汚れている机の上を気持ち拭く。そうしたらミニパーティーのはじまりだ。グラスにシュワーッと泡立つシャンパーニュが注がれる。特別なお祝い事がなくてもシャンパーニュでアペロタイム、昼食前に軽く一杯やる。生ハムやチーズ、パンを用意すれば皆で軽く昼食会に、おやつの時間はお菓子のお伴に、喉が乾く夏は帰宅前に。

仕事中に飲むの?大丈夫?なんて言われそうだけれど、誰も一杯くらいじゃ酔わないから。それに私の同僚女子マリーに拠れば、「シャンパーニュで機嫌がよくなったって酔った事にならない」らしいし、「ワインやビールとは別物」とのこと。そうか、ならいいや。パリジャンヌがそう言っているんだ。それに実際、そのせいで失敗をやらかしたことはないな。仕事の失敗は大抵メンタルなものか単純な技術不足だ。

メンタルが仕事に与える影響はいかに。で、ふと思い出したのだが、日本に居る頃ある実験をしたことがある。その当時私は日本の伝統的な彫金技術を使ったオリジナルジュエリーを作りつつ、和彫りを帯留や蓋置き、純銀製鍛造品に施す仕事をしていた。彫りを施す前はあまりの緊張に胃だけでなく膀胱まで縮まる気持ちなる。一旦彫りだすと無心になれるのだが、この問題をなんとか出来ないかと考えた末に一度、少しだけビールを飲んで仕事をしてみた。少し酔うとリラックスしてかえって良いのではと思ったからだ。
結果、なるほど緊張は和らいだ。そして彫り損ないも無い。ある意味実験は成功。でも彫りがどこかつまらないかんじになってしまったのだ。洋彫りが全体に均一で柔らかな印象をもたらすのに対して、和彫りの魅力は彫りの勢い。緊張感に全体が支えられるかのような印象になる。書のように一度で彫りきるのが好ましいため、瞬間瞬間が勝負。微妙な事だが、線が生きた表情をし、彫り手独特の感覚が反映されていないと面白くない。そんな彫りをしたい。
じゃあダメじゃない!という声が聞こえてきそうだ。そう、だめだ。だめだめだ。和彫りとアルコールはどうも相性が良くないようで、あくまで私の場合だが。これ以来、彫りの前に感じるひどい緊張をも歓迎する心持ちになった。ああ、そういえば、シャンパーニュでなくビールだったのも悪かったのだろう。

酔拳なんていうのもあるらしいが、ビジューティエでこの拳の使い手にはまだお会いしたことがない。力みは消え去り、飲めば飲む程強くなる。力み、つまりあらゆるプレッシャーをコントロールし、飲めば飲む程、仕事が早く美しくなる。
石留めのニコラは私を見るとアチョーとやってくれる。フランスでは空手が盛んで彼も少しは知っているようだけど、彼の仕草はむしろ中国式拳法だ。虎になったり、かまきりになったり、こうやってふざけて仕事の疲れや締め切りのストレスを逃がすのだ。これはまさにプレッシャーをコントロールすることじゃないか。短い双眼鏡のような眼鏡をかけて小さい宝石を一切の隙間無く、彼曰く ”ツッシュツッシュ!”、石の端をピッタリ隣わせて石留めする。細かい細かい石留めの仕事の合間にはこういったばかばかしいことが必要なんだろう。私も鶴になって応戦する。手にはシャンパーニュがあったり無かったり。

ビジューティエの仕事は正確で細やかな仕事の積み重ねを要求される。失敗に失敗を繰り返したあげく、小さなパーツを床に落として見つからなかったりすると泣きたくなる。安定した質の高い仕事には一生勉強が欠かせない。巧く行かないからと言ってあまりに自分を攻めるのは止めよう。
また自分の仕事をきちんとしたとしても、何かが掛け違うと最後の最後までそれに足を取られるような羽目に合う。デザイナーのアイデアが変更に次ぐ変更で定まらなかったり、メタルや石の素材に問題が起こったり。石留めやさん、磨きやさんなど次のステップで失敗があったり。お客様メゾンの政治的な理由でプロジェクトが頓挫するということさえある。
それら失敗や問題、全てがアトリエの、そして個人の収入に関わって来る。自分のせいでもそうでなくても、そうやって何度も繰り返し問題が持ち上がると頭に血が上ってどうしようも無くなる時がある。そんな時に例のポンを聞くと待ってましたとなる。

ところでシャンパーニュのポンはワインやリキュールの栓を抜く音よりボリュームアップした音で、耳が知っている。いつもボリュームの有る方のポンなのでたまにかわいいポンを聞くとかえって期待が高まる。「またシャンパーニュか」なんて偉そうか。でもシャンパーニュはイメージ戦略に成功しているだけでそんなに有り難がる必要も無かろうと思うのだ。
アトリエには大きなジュエリーメゾンのお偉方や、おしゃれな方々も訪れるのでシャンパーニュの出番も自然に多くなる。シャンパーニュが他のスパークリングワインと段違いに高価なように、彼らとは給料は桁違いだろうが、仕事の質の高さに桁が違う程の違いがあるのだろうか。

あまりに仕事の状況が厳しいと「もういいよ」なんて思うものだ。そんな時は泡の踊るシャンパーニュでも飲んで気持ちを落ち着けたい。美しいジュエリーに囲まれて、良い質の仕事をする、そんな喜びの方へ意識を向けろ。アトリエが制作するのは、ビジューティエが一生涯通しても自分では買えない額のジュエリー達がほとんど。”この指輪買うなら田舎に家買います” の世界。そんなジュエリーをけっして低くないストレスと決して高くない給料で日々つくる。華やかなジュエリーだけど確実に積み上げられた技術とたくさんの理不尽な犠牲の上に成り立っている。そんな事実が迫ってきて物思う時はシャンパーニュが相応しい。ポンッ、シュワッ。

プチフランス語講座:champange[シャンパーニュ](シャンパーニュ地方で作る発泡ワイン酒)
          apéro[アペロ](食前酒apéritifの略)
          lux{リュックス](贅沢、豪華)

■ Comment

そんなにシャンパーニュ飲む機会があったとは・・。すごい羨ましいー。

そういえば、シャンパーニュとスパークリングワインの違いが分かってからというもの、
日本の結婚式で司会の人が<それでは、シャンパンでお祝いいたしましょう!>
と、そのときテーブルのボトル見たら、日本のスパークリングワインでガッカリしたのを
覚えてるわぁ。
シャンパンじゃないじゃーん!と、思ったのは私だけだった・・・と思う。

シャンパーニュもいいけど

ちなみに、記事を書いた私はクレモンアルザス派、かなり美味しいよ。欠点はシャンパーニュ程お高くないことー。

> そんなにシャンパーニュ飲む機会があったとは・・。すごい羨ましいー。
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